乳について

私は私の乳が嫌いだった

左右で大きさが1カップほども違い

毛がびっしり生えていた

色も汚かったしムラがあった

シミもあった

気持ち悪いと思って毛を抜いた部分だけ

皮膚が引っぱられて毛穴が白くなった

毛はまた生えてきた

乾燥すると皮が剥けた

 

醜いだけでなく

少し圧迫するだけで痛かったし

ストレスが溜まると締め付けられるように

苦しくなった

酒を飲んで血流が多くなると

ブラジャーの締め付けで息ができなかった

乳がん予備軍みたいなのは常にあったし

それは私の食事を健康的にした

健康的なものはおいしかったのでよかった

友だちのお母さんが

米食乳がん予備軍が消えたと言っていて

真似した

 

地元のイオンに売ってる

ヒラヒラのブラジャーは

かわいくなかった

醜い乳の上にジャキジャキした色の

レースのついたブラジャーが乗ってるのを

じっと見た

乳の皮膚に生えてる毛と

レースを見比べた

パソコン同好会とバレー部くらい

テンションに差があった

 

ステマで買ったナイトブラは

最高だった

寝る時は締め付けで痛くもなく

自重のひっぱりで痛くもなかった

ステマの誇大広告を信じてよかった

 

大きくなってからは

そんなに乳を憎く思わなかったけど

ボディポジティブではなかった

好きではなかった

ただ嫌いだと思うエネルギーがなかった

でもボディポジティブの人は

最高にcoolだと思った

 

恋愛が他人事になってからは

アイドルとかDIVAとかゲイクイーンとかの

かっこいい乳に憧れた

あらゆる胸筋へ

臆面なく上等なプロテインをあてがい

ふんだんにジムの器具を使い育てられた

エンパワメントの詰まった乳

アゲアゲなフェミニズムマインドに

視覚で結びついた乳

でもそれが自分のものになるとは

思わなかったし

自分に相応しいものと思えるほど

私に価値も金も運動の習慣もなかった

 

昨日読んだ小説で

私の乳は

何かを傷つけたことがないと知った

ただ醜く

時には致命的に痛み

命に栄養を与えるでもない

変な乳

 

私は脚で虫やザリガニを

踏み殺したことがある

手で包丁を持って

動物の死体の一部を

切ったことがある

浮気されてビンタしたことがある

目で侮蔑したことがある

口で相手をこてんぱんに

どこまで傷つけられるか実験するかのように

言葉を発したことがある

 

私のすべては無勉強な限り

他人や他の動物を踏みつける力を持っていて

未熟な限り実際に傷つける

傷つけた分は元に戻らないことを

知っている

私は私を傷つけたやつを許さないし

私にそう思ってる人もたくさんいる

それは正当だ

 

自分に

何も奪ってない

何も傷つけていない部位があると

知らなかった

自分が憎い

自分が共に生きなければいけない

身体そのものもとても憎い

あんたがあるから

生きなければいけない

命を奪って、食べて、排泄して、

体を洗い、自分の未熟さに怯え、

生きなければならない

 

小説の乳のくだりは

物語にとってそこまで重要じゃ

なかったかもしれないし

とても重要かもしれなかった

今生理前で

私の乳は先月と同じように

はっている

誰も傷つけてこなかった乳は

私の体に対する憎しみを

ちょっと緩和した

でも相変わらず憎かった